葛飾北斎の浮世絵「富嶽三十六景」の「武州玉川」について説明する。
浮世絵の題材となった場所の玉川は多摩川のことである。多摩川は山梨から東京を経て神奈川に流れる川である。
この図は川の中流域にあたる調布もしくは府中あたりの渡し場からの眺めと思われる。
この浮世絵は3段に絵を区切った構図で、それぞれが図に組み合わされ、違和感のない雰囲気である。
前景は、人家すらない川辺を農夫らしい男が馬をひく様子のみが描かれ、物寂しい雰囲気をただよわせている。
中景では、一艘の舟が旅人を乗せて対岸ヘ向かっている。川面はやや波うって速い流れをみせながらも、藍の拭きぼかしと藍の線のみで表している。
水面が白く輝いているような濃淡をつけ、実は細波も絵の具をつけないで摺られた、空摺り(色を使わず圧力で紙に凸凹をつける浮世絵の技法)で表現されている。
川を画面の斜め軸に沿って描き、それに加えて波の文様を細かく描き込むことで、急な流れをイメージさせようとしている。
船頭は、流されまいと必死に漕いでいるように見える。
遠景は、画面を大きく横切る霞の彼方に置いて、雪をかぶった富士山容が堂々とそびえているのである。
この浮世絵は1830年から1832年頃の作品である。北斎の年齢が72歳頃になる。
コメント