葛飾北斎の浮世絵「富嶽三十六景」の「常州牛堀」について説明する。
この浮世絵の牛堀は霞ヶ浦の東岸、現在の茨城県潮来市(いたこし)潮来町(旧牛堀町)に位置する。
牛堀は霞ヶ浦の東岸。往時は、鹿島や銚子などヘ向う航路として、多くの船の行き交いがあった。
霞ヶ浦は、富士が眺望することのできる景勝地として知られている。
この浮世絵は、菅(すげ)・茅(かや)などで編んだ苫(とま)で覆われた苫舟(とまぶね)で生活する人々の、一日の始まりを描いたものとおもわれる。
朝食の支度にかかっているのか、舟から身を乗り出した男は米のとぎ汁を川に流し、その音に驚いた2羽の白鷺が舞立つ様子も捉えられている。
苫舟柄の着物の葦と組み合わせて侘びた趣を表現する。源氏物語の「浮舟」を象徴するモチーフでもある。
この浮世絵の大胆な構図の中にも、夜明け前の静まり返った空気を感じさせる抒情性にあふれた作品である。
現在の潮来市は、水郷筑波国定公園の一角となる。
水郷潮来あやめ園を中心としたあやめ(花菖蒲)の名所や川を巡る十二橋めぐりで水郷特有の観光名所である。
米栽培を中心とした農業が盛んである。
この浮世絵は1830年から1832年頃の作品である。北斎の年齢が72歳頃になる。

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