
歌川広重-名所江戸百景-19-春-王子音無川堰棣 世俗大瀧ト唱 解説
現在の住所:北区王子町本町1丁目付近
緯度経度 :緯度35.7521:経度139.7378
出版 :1857年2月 年齢:61歳
解説
<1> はじめに
「王子音無川堰棣 世俗大瀧ト唱ふ」は、北の名所・王子の音無川に設けられた堰の景観を題材としています。
当時、この堰の落水は「大瀧」と呼ばれ、庶民にとっては手軽に訪れることのできる“滝見の名所”でした。江戸の人々は、自然の造形に人工の工夫が加わることで生まれた景観にも心を寄せていました。
<2> 音無川とは
音無川は、現在の石神井川の王子付近における呼称です。
川幅は狭いものの、蛇行を繰り返しながら豊かな水をたたえ、川沿いには木々が生い茂っていました。
江戸時代、音無川一帯は「王子七滝」と呼ばれる滝の名所で知られていました。
川沿いの散策は江戸庶民にとって憩いのひとときでした。
堰棣(えんたい)とは、川に設けられた堰(堤防や水門)を指します。
王子音無川の堰からは水が流れ落ち、小滝のような姿を見せ、人々はこれを「大瀧」と呼んでいました。
石神井川の下流に位置し、 飛鳥山と王子稲荷の間を流れて隅田川に合流します。
金剛寺から大堰あたりの風景は渓谷のようになり、春は桜、秋は紅葉の景勝地として知られています。
<3> 絵の見どころ
堰から落ちる水の白い飛沫を大胆な筆致で描きました。
実際の規模は大きな滝ではないものの、画面全体を流れる水の動勢によって迫力を演出しています。
手前には水辺に集まる人々の姿があり、行楽や滝見に訪れた庶民の楽しげな様子が伝わります。
滝壺に近づいて涼をとる者や、遠巻きに眺める者など、思い思いの過ごし方が描かれています。
川沿いにはうっそうとした木々が立ち並び、季節感豊かな緑が景観を引き立てています。人工物と自然が調和する江戸らしい景勝の表現です。
実際の落差はわずかでしたが、江戸庶民はこうした小規模な景観にも風雅を見いだし、敢えて「大瀧」と呼んで楽しみました。
この遊び心が、当時の文化を感じさせます。
この滝は1657年、 灌漑用水のために造られた人工の滝で俗に大滝と呼ばれました。
滝の上流は穏やかな流れであったために音無川と言われました。
川を挟んで東に飛鳥山、西に王子稲荷があり付近は観光客で賑わい、料亭も多くありました。
正面の大滝には滝浴みをしている人、魚を取ろうとしている人が見えます。
崖には満開の桜と休み小屋が描かれています。
左のたか台に茶屋が、滝の先に金輪寺が確認できます。
<4>江戸庶民と滝見
江戸市中から王子までは数里の距離です。
馬や徒歩でも日帰りで楽しめるため、王子は格好の行楽地でした。
音無川の堰棣は、その散策途中の名所として人気を集めました。
夏の盛りには、落水の飛沫が周囲を涼しく包み、人々はここで涼をとりました。
滝見は庶民にとって、都会の暑さから逃れる一種の清涼体験だったのです。
詩歌や俳諧の題材としても人気で、小さな滝や流れを風雅に詠むことが好まれました。
<5>現代の音無川
現在の北区王子には「音無親水公園」が整備されており、当時の川筋を模した親水空間が広がっています。
かつての「大瀧」の景観も復元されており、江戸の情趣を現代に味わうことができます。
すぐ近くの飛鳥山は桜の名所として知られ、王子稲荷や王子神社とあわせて散策することで、江戸時代と同じような観光コースを体験できます。
JR京浜東北線・東京メトロ南北線「王子駅」から徒歩数分です。
江戸庶民が日帰りで楽しんだ行楽地が、今は都心から気軽に訪れる観光場所となっています。
<6>観光ガイド
①音無親水公園
当時の川辺を再現した親水空間があり。散策や水遊びにぴったりです。
②音無橋
現代の橋上から川を眺めれば、浮世絵の風景を重ね合わせることができます。
➂飛鳥山公園
名所で、桜や紅葉の時期は特におすすめ
➃地元飲食
王子周辺の老舗和菓子店や蕎麦処で、江戸散策の雰囲気を味わえます。

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