
歌川広重-名所江戸百景-18-春-王子稲荷の社 解説
現在の住所:北区岸町1丁目 王子稲荷神社
緯度経度 :緯度35.7520:経度139.7366
出版 :1857年9月 年齢:61歳
解説
<1> はじめに
「王子稲荷の社」は、江戸北部の名社・王子稲荷神社を題材にした作品です。
庶民の信仰と行楽の両面をうかがうことができる興味深い作品です。
王子稲荷は、関東における稲荷信仰の中心的存在であり、狐火の伝説や正月行事などで広く知られています。浮世絵の中では、参詣者で賑わう境内の様子が細やかに描かれ、江戸っ子たちが信仰心と娯楽をどのように結びつけていたのかを物語っています。
<2> 王子稲荷とは
江戸の北方にあたる王子は人家の少ない農村でした。
王子稲荷神社は、平安時代に伏見稲荷から勧請されたと伝わる古社で、武蔵国における稲荷信仰の拠点とされていました。
鎌倉時代には豊島氏の守護神として崇敬を受け、江戸時代に入ると徳川将軍家からも篤く保護されました。
農業・商売繁盛・家内安全を祈る庶民が多く参詣し、正月の初詣や祭礼の日にはたいへんな賑わいを見せました。
王子稲荷には「大晦日の夜、関東一円の狐がここに集まり、初午に向けて出発する」という伝説がありました。
<3> 絵の見どころ
「王子稲荷の社」には、参拝者が行き交う境内の様子が生き生きと表されています。
参拝のために並ぶ人々や、屋台で買い物を楽しむ人の姿は、まるで現代の初詣を思わせます。
中央には朱塗りの社殿が描かれ、その奥に拝殿がそびえています。
参道を歩く参拝者の姿が、神社の格式と信仰の篤さを際立たせています。
稲荷神社を象徴する狐像も描き込まれ、境内の雰囲気を一層強めています。
狐は稲荷大神の神使とされ、五穀豊穣や商売繁盛の守り神として信仰されています。
背後には飛鳥山や石神井川沿いの木々が広がり、社殿と自然が調和した景観が印象的です。
石段を登った高台に鎮座する本社からは遠方を見通すことができます。
田んぼの向こうに筑波山が描かれています。
鳥居は石段の途中にあるように感じられますが、実際は階段を降りきったところにあります。
朱塗り格子の外囲いが鳥居の向こうに一部見え、その外側に並んでいる茶店が屋根だけ見えます。
右の稲荷神社に神主が描かれています。
<4>江戸庶民と王子稲荷
2月最初の午の日に行われる「初午」は、王子稲荷最大の祭礼で、江戸中から大勢の人が集まりました。
境内は屋台や芝居小屋でにぎわい、まるで一大縁日のような様相を呈しました。
大晦日の夜、狐が王子稲荷に集まるという伝承は、江戸庶民の想像力をかき立て、狐面や狐火を主体とした行事にも発展しました。
飛鳥山や王子権現と並び、王子稲荷は「参詣と遊楽」を兼ね備えた人気場所でした。
春の花見や秋の紅葉とあわせて訪れる人も多いです。
<5>現代の王子稲荷
現在も北区岸町に鎮座し、東京を代表する稲荷神社として参拝客を集めています。
初午祭には、かつてと同じように多くの参詣者が訪れます。
毎年大晦日から元旦にかけては「王子狐の行列」が行われ、白装束と狐面をつけた人々が行進します。
広重が描いた伝説が現代に生き続けている好例です。
JR京浜東北線「王子駅」から徒歩5分と便利で、飛鳥山公園や王子神社とあわせて観光することができます。
<6>観光ガイド
①初午祭
江戸時代から続く王子稲荷最大の祭礼です。
縁起物の「初午凧」も人気です。
②狐の行列
大晦日から元日にかけて行われる幻想的な伝統行事です。
➂飛鳥山とのセット観光
桜の名所飛鳥山公園とあわせて散策すれば、江戸の行楽を体感できます。
➃狐の石像
境内各所に点在する狐像を探すのも楽しみのひとつです。


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